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ツコウ卒業生インタビュー~林 菜生輝さん(津和野共存病院勤務)

  • 内谷愛
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津和野高校に教育魅力化コーディネーターが配置されてから11年目となる令和6年度。

 

津和野高校で学び、それぞれの道を歩んでいる卒業生にインタビューし、津和野高校での学びや津和野町での暮らしが「今」の自分にどのようにつながっているのかお話をうかがいました。

 

今回は、医療法人橘井堂津和野共存病院に勤務する林 菜生輝さん(はやしなおき)さんのインタビューを紹介します。

 

 

林 菜生輝さんプロフィール

 

 

令和2年度に津和野高校を卒業。

高校卒業後、島根県立石見高等看護学院へ進学。

令和6年度より津和野町にある医療法人橘井堂津和野共存病院にて看護師として勤務中。

幼少期より石見神楽に親しみ、小学4年生の時から本格的に取り組む。演者としてはもちろん、神楽面や台本の作成など、石見神楽に関する活動全般に携わっている。

 

 

 

生まれ育った津和野町日原地区は、人の温かさが誇り

 

津和野町日原で生まれ育った林さんは、兄弟が通っていたこともあり、迷うことなく津和野高校(ツコウ)への進学を選んだそうです。

 

「兄弟がツコウに通っていたことや、好きな神楽を続けていきたいというのもあり、迷うことなくツコウに進学しました。

川のある町の景色や人が温かいところなど日原が好きですし、神楽でいうと、町にある神社にも思い入れがあり、津和野町を出たいと思ったことはありません。」

 

そして進学した津和野高校では、地元だけど知らない人がたくさんいたことに驚いたそうです。

 

「地元の高校だけど、県外生も含めて知らない人や知らないことがたくさんあり、新しい経験ができる機会が多くありました。同級生にも神楽をやっている人がいたので、文化祭で一緒に石見神楽を披露したり、外国人の方向けに神楽の台本を英訳したりという挑戦もできました。

また、探究授業で出会った神楽面づくりが今の活動に繋がっています。」

 

ツコウでの様々な体験を詳しく聞いていきたいと思います。

 

 

 

ツコウの探究授業ブリコラージュゼミで出会った”神楽面づくり”

 

石見地方を代表する伝統文化である石見神楽には、小学4年生の時から本格的に取り組み始めたという林さん。笛の演奏から始め、他の楽器の演奏や舞い、台本づくりなど、社中と呼ばれる各地域や地区で組織されている石見神楽の団体に属して活動しています。

 

林さんが所属する日原社中。地域の様々なイベントや観光名所で神楽を行っています(写真は青野山の麓、満開のつつじの中での神楽)

 

 

そんな中、ツコウの探究授業「ブリコラージュゼミ」で、神楽面づくりを受講したことがきっかけで、現在も神楽面づくりに取り組んでいます。

 

*ブリコラージュゼミとは、津和野町のひと・もの・こととの出会いを通じて、自分自身がどんなことに興味関心があるのかを探すこと・気づくことを目的とした探究授業の一つです。

町内の方に講師となっていただき、ご自身の好きなこと、得意なこと、考えていることなどを高校生に伝えていただきます。

 

・ブリコラージュゼミについて、詳しくはこちら

 

 

「神楽面の作り方はなんとなく知っていたのですが、実際に作ってみると、簡単に見えていたことでも、意外と細かい作業が必要だったりして、とても大変で驚きました。

 

お面に粘土をつけて、乾かして、型を抜いて、色を付けて、和紙を貼って、目や口を描いて…と頂いた進行書を見ながら作成しました。授業時間だけでは足りず、家でやる作業の方が多く、完成までに1カ月程かかりました。

 

少しずつだったけど、作業する中でどんどん完成に近づいていくのがとても楽しかったです。」

 

高校の授業「ブリコラージュゼミ」で初めて作った神楽面。今も大切に自宅に飾っているんだそう。

 

 

 

神楽面を通して人とのつながりや交流が広がった

 

その後、所属している日原社中で古くなった面があり、気になっていたという林さん。

 

「高校のブリコラージュゼミで神楽面づくりを体験していたので、今度は一人で古い面を作り直してみようと思いました。もし一度もやったことがなかったら、きっと自分でやってみようとは思わなかったと思います。」

 

そうして林さんが作り直した神楽面は、とても評判が良く、これをきっかけに他の社中からも面の作成や修復の依頼が来るようになったそうです。

 

林さんが初めて一人で修復した神楽面。表情や色合いも舞や衣装とのバランスを考えながら作ったそうです。

 

 

人気の演目「大蛇」の頭や胴体も修復。「傷みやすい箇所には和紙を重ねるなど、実際に使う場面をイメージしながら作業しています」と林さん。

 

 

 

「所属している日原社中の面の作成や修復だけでなく、近隣の社中からも依頼が来るようになりました。SNSにUPした神楽面を見て、県外の方から依頼が来ることもあります。

 

これまで津和野町外の社中との交流はほとんどなかったのですが、神楽面を作り始めてから益田市や浜田市など町外の社中とのつながりもでき、交流したり、お互いの舞台に出演したりするなど、人とのつながりがどんどん広がっていきました。」

 

林さんが作成した神楽面を使用した舞。神楽面を通して人とのつながりが広がっていきました。

 

 

人気の演目「大蛇」の頭や胴体も修復。そのご縁がきっかけで他の社中さんの舞台に出演することも。

 

 

これまで約30の神楽面を作成してきた林さん。神楽を通して出会った様々な世代の人との交流が自身に新しい価値観をもたらしてくれたとのことです。

 

「神楽は見る楽しみもありますが、担い手が減ってきているという課題もあるので、見るだけでなく、体験してもらうことを通して担い手が増えたらいいなと思っています。

 

そのためにも、神楽に親しんでもらえるような機会を創ったり、今はやらなくなった演目の台本をリメイクしたりと、いろいろな社中の方とつながりながら石見神楽全体を盛り上げていけたらと思います。」

 

 

町営英語塾HAN-KOHを活用しながら部活動や神楽に加え、勉強も!

 

高校時代は、陸上部に所属しながら、毎週金曜日の夜に神楽の練習を行っていた林さん。

どのようにして部活動と神楽、そして勉強を並立させていたのでしょうか。

 

「高校に入学してからは、試験期間中は神楽の練習を休み、勉強に集中して取り組むようにしました。2年生になり受験を考えるようになってからは、騒がしい教室や自宅では勉強ができなかったので、静かで集中できるHAN-KOHに通うようになりました。

 

それまでは、HAN-KOHはマイプロジェクトをやっている人や、勉強のできる人たちが通う場だと思っていたので敷居が高くて入りづらかったのですが、実際にHAN-KOHに来てみたら、近いし、いろんな人が声を掛けてくれる居心地の良い空間でした。」

 

高校の敷地内にある町営英語塾HAN-KOHも活用しながら、自身の中でやるべきことのメリハリをつけて部活・神楽・勉強のバランスをとっていたことが伺えます。

 


毎週金曜日の夜に2時間ほど、神楽の練習を実施。やるべきことに優先順位をつけて時間を使う習慣も身についたそうです。

 

 

神楽の台本英訳を通して、人との関わり方を学んだ

 

2年生の時には、神楽の人気演目「大蛇」の台本英訳にも挑戦しました。

 

「まず台本を現代語訳し、英語の得意な同級生に協力してもらいながら英訳しました。それを英語の先生やHAN-KOHの方に見てもらって修正したものを、津和野町を訪れる外国の方に見ていただいて最終修正していきました。

 

初めて会う方たちに、この英訳プロジェクトのことを説明して、協力してもらう必要があったので、これまでにないくらい多くの方と話し、関わる機会となりました。おかげで、人との関わり方を学ぶことができました。

 

外国の方への確認依頼は、町内のイベントに外国の方が参加するという情報を聞いたので、そこに自分も参加してお願いしました。初めての経験で緊張しましたが、コーディネーターが同席してくれて心強かったです。」

 

そうして完成した大蛇の英訳台本は、イスラエルの方が神楽を観られる際にお渡しし、英訳台本のおかげでストーリーがわかり、より楽しめたとの感想をいただきました。

 

 

林さんが英訳した大蛇の台本。「作成の過程で様々な人との関わり方を学び、今の自分につながっています」と林さん。

 

 

 

「英語で多くを話すことはできなかったけれど、自分なりにコミュニケーションをとるなど、外国の方とも積極的に関わることができました。イスラエルの方たちに神楽も英訳台本も好評で、やってよかったと感じました。

 

これまでの人生で、こんなに積極的に活動したことがなかったのですが、今回の経験を通して、”自分も意外とできるんだ”と気づきました。

 

この時の経験があったからこそ、今では初対面の人とも気負いなく話すことができるようになりました。」

 

 

 

現在は、町内で看護師として勤務しながら神楽も継続

 

中学校の職場体験の授業で看護師の方と話した際に興味を持ち、自身も人の役に立つことができればと考え、看護師を目指すようになったという林さん。

 

「今年度から、津和野町内にある病院で看護師として勤務しています。主に入院されている患者さんのサポート等を担当しています。職場の方も優しい方ばかりで、自分なりに成長を感じることも増えてきました。

 

特に、ツコウでの経験を通して学んだコミュニケーションスキルは、看護師として患者さんの悩みや困りごとなど、様子を知る際にもとても役立っています。」

 

患者さんとの会話を通して得られる情報が、入院時のサポートにも生きています。

 

 

温かい職場に恵まれ、津和野町のゆったりした時間の中で、充実した毎日を過ごしているそうです。

 

先輩方とも常にコミュニケーションをとるよう心がけています。

 

 

もともと人と話すことが苦手だったというのが信じられないくらい、相手の目を見て丁寧に対話する林さんの姿が印象的でした。

 

 

 

津和野町はいろいろな経験をしているおとなが身近にいる町

 

最後に中高生へメッセージをいただきました。

 

「なかなかやりたいことが見つからず、悩んでいる人もいると思うけど、津和野町には高校のコーディネーターなどいろいろな経験をしているおとなが身近にたくさんいます。

 

周りのおとなに相談したり、話してみたり、話を聞いてみたりすることで、意外とやりたいことが見つかったり、幅が広がったりして、新しい自分を見つけることができると思います。

 

自分も、英訳プロジェクトの際には、海外経験のある人にたくさん協力してもらいました。なので、どんなことでも積極的にやってみてほしいと思います。」

 

 

看護師として働き始めてからも、石見神楽に関わる様々な活動を継続している林さん。

今後は石見神楽の台本のリメイクにも力を入れ、これまでやったことのない演目にも挑戦していきたいそうです。

 

忙しい毎日を送っているからこそ、自然豊かな津和野町を散歩したり、大好きな神楽に関する活動をすることでリフレッシュできると笑顔で話す林さん。心の底からこの町と、この土地に根付いた石見神楽が好きなんだと感じました。

 

自分の”好き”や”やりたい”という思いを軸に据えながら生きる林さんの踏み出す一歩が、町や地域の成長へと循環しています。

 

この記事を書いた人
内谷愛
広報
内谷愛
北海道から広島まで、日本各地で過ごした幼少期。民間企業勤務時に海外の文化に接して刺激を受け、約15か国を旅しました。もっと現地の人と関わりたくて、ワーホリでオーストラリアへ行ったり、ボランティアでアフリカへ。そこでの生活を通して、幸せや豊かさ、自分がどう生きたいのかを考えるようになりました。国際理解教育に携わり、団体・高校等でのコーディネーターを経験。キャンプと旅と音楽が好き。広報を通してみなさんとつながれたら嬉しいです。