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津和野高校の「総合的な探究の時間」について紹介します!

  • 筌場 彩葵
  • 筌場 彩葵

津和野高校の「総合的な探究の時間」では、つわの学びみらい所属の教育魅力化コーディネーターが設計・運営に関わり、高校の先生方とともに実施しています。

何を目標とし、どのような内容で進めているのか、ご紹介します!

 

 

はじまりは「津和野高校魅力化プロジェクト」

 

津和野町は、島根県南西部に位置する人口およそ6,600人の小さな町です。少子高齢化の波が押し寄せ、町で唯一の高校である津和野高校(県立)は、年々生徒数が減少し、十数年前に統廃合の危機にさらされました。

 

 

県内の過疎化がすすむ他の地域も同様の状況にあり、島根県は平成23年に離島・中山間地域の8校を指定して「高校魅力化*」事業を実施し、そのひとつに津和野高校が選ばれました。

 

*「高校魅力化」とは?

生徒一人一人に、自らの人生と地域や社会の未来を切り拓くために必要となる「生きる力」を育むことを目指した、地域社会との協働による魅力ある高校づくりのことです(平成31年2月島根県教育委員会「県立高校魅力化ビジョン」より)。

 

津和野高校では、平成25年にはじめて高校魅力化コーディネーターが配置され、「探究的な学び」に重点を置いた取り組みを進めてきました。

 

*「探究的な学び」とは?

「机に座った状態で教科書を使って学ぶ」従来的な学びだけでなく、

「学校外に飛び出し多様な他者や地域・社会の課題と出会うことを通して学んでいく」という、より実践的な学びのスタイルのことです。

 

 

この高校魅力化コーディネーターが仕掛けた探究的な学びが生徒のニーズとマッチしたこともあり、県外からも入学希望者が集まるようになりました。

今では全校生徒(約200名)の約3分の1(60~70名程度)が島根県外から来ています。

 

 

【ツコウ生の出身地】

  *2023年5月時点

 

 

津和野高校独自の探究的な学びのプログラム「T-PLAN」とは?

 

「T-PLAN(ティー・プラン)」は、カリフォルニアでプロジェクト型教育プログラムに携わっていた津和野高校の元教育魅力化コーディネーターの経験をもとに考案した、津和野高校独自の学びのプログラムです。

 

T-PLANの目的は、探究的な活動を通して地域や社会に対しての視野を広げ、協働的な課題解決の学び方を身につけるとともに、社会に貢献するための自己のあり方や生き方について考えることです。

 

そして、T-PLANで育てたい資質・能力は、高校のグランドデザインに基づき「挑戦する意欲・表現力・豊かな感性・コミュニケーション力・寛容な心・当事者意識・行動力」と位置付けており、1年生から3年生までの継続的なプログラムになるよう設計しています。

 

〇総合的な探究の時間「T-PLAN」の実践報告書はこちら

 

 

そもそも「探究」ってなに?

 

T-PLANの詳しい内容について紹介する前に、そもそも「探究」とは何でしょう。

 

学習指導要領によると「総合的な探究の時間」では

『生徒は、

①日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて、自ら課題を見付け、

②そこにある具体的な問題について情報を収集し、

③その情報を整理・分析したり、知識や技能に結び付けたり、考えを出し合ったりしながら問題の解決に取り組み、

④明らかになった考えや意見などをまとめ・表現し、そこからまた新たな課題を見付け、更なる問題の解決を始める。』

 

とされており、「物事の本質を自己との関わりで探り見極めようとする一連の知的営み」を「探究」と定義しています。

『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説−総合的な探究の時間編−』文部科学省、平成30年7月、P.12より)

 

ここで示されている探究の4つの過程(①課題の設定②情報の収集③整理・分析④まとめ・表現)を津和野高校独自に整理したものが、

 

【ツコウ「探究」3step】です。

 

4つの過程が【ツコウ「探究」3step】では、以下のようになります。

①課題の設定→「テーマ発見期:さがす」

②情報の収集

③整理・分析

④まとめ・表現→「トライ&エラー期:やってみる」

新たな課題を見付け、さらなる問題の解決を始める段階→「俯瞰・発展期:つなぐ」

 

 

 

T-PLAN 1年生の実践|テーマ発見期「さがす」

 

1年生では、学校内外での様々な経験や人との出会いを通して、「自分自身の興味関心が向くことを“さがす”」ことを大切にしています。

 

例えば、地域の方にご協力いただき、自身の得意なことや経験を生かした講座の講師となっていただいています。この講座では、生徒がさまざまな体験や町のおとなと出会うことを通して、自分の興味関心や感情がいつ動くのかを知り、自己理解を深めることを目的としています。

 

「まち歩き(歴史グループ)」の様子

 

また、地域のおとなの方と1対1で対話する機会を設けています。地域の方との出会いやコミュニケーションの場として、また生徒が「身近なところに、自分の可能性を広げてくれる人や場所がある」ということに気づくきっかけとなることを期待しています。

 

地域のおとなの方と1対1で対話(トークフォークダンス)

 

2年生の実践|トライ&エラー期「やってみる」

 

2年生では、1年生で見つけた興味関心を深めていくことに挑戦します。具体的には、生徒それぞれが自身の興味関心のあるテーマを設定し、そのテーマについて追究・実践していきます。

 

「どうしたら津和野町に観光客を多く集めることができるか?」や

「どうしたらフェアトレードをもっとみんなに知ってもらえるか?」

など、地域や社会にある課題に対しての解決策を探究する生徒もいれば、

 

「なぜマイノリティは差別されるのか?」

「なぜ養護教諭には悩みを打ち明けやすいのか?」

など、生徒自身が日常の中で抱いた疑問について探究する生徒もいます。

 

山口大学の先生から「探究とは何か?」や「問いの立て方」について学ぶ

 

 

3年生の実践|俯瞰・発展期「つなぐ」

 

3年生では、2年間の活動を振り返り、これまでに得た気づきや学びを言語化・整理し、自身の生き方へとつなげていきます。

 

昨年度までは、3年時の文化祭やオープンスクールで、探究活動の発表会を実施していましたが、今年度は予定を前倒しし、2年生の終わりに大学の先生や県の教育委員会の方、卒業生等を招いて発表会を実施しました。

 

文化祭で自身の探究活動を全校生徒を前に発表

 

今年の3年生は「自身の経験や考えを論理的に伝えることができる力」を身につけることを目標に、これまでの取り組みをレポートにまとめています。

 

 

ツコウの「総合的な探究の時間」のこれから

 

これまで多くの人が関わり、試行錯誤を繰り返しながら進化し続けている津和野高校の「総合的な探究の時間」。近年は時代の転換期とも言われるほど大きく社会が変化しており、大人でも答えを出すのが難しいことばかりです。そうした中で、どんな人を育てていきたいのか?どんな学校にしていきたいのか?私たちも常にそこに向き合い、挑戦し続けています。

 

学校の外に出て、さまざまなヒト・モノ・コトに出会い、触れること。それらを可能とするフィールドが津和野にはあります。

 

高校生の小さな疑問から始まる豊かな発想や挑戦は、私たち大人が日々直面している課題とも通ずるものでもあり、私たちにとっても大きな学びの機会となっています。

 

 

 

 

この記事を書いた人
筌場 彩葵
教育魅力化コーディネーター (高校担当)
筌場 彩葵
兵庫県淡路市出身。幼少期に周囲と馴染めなかった経験から「”普通”ってなんだろう?」というテーマを抱くようになりました。大学時代に多様な学びの場づくりやファシリテーション、NVC(非暴力コミュニケーション)などを探究し始め、大学卒業後は教育関係のNPO等で、不登校・就職に不安がある・保護者に頼れない・性的マイノリティである、など多様な背景のある子ども・若者のサポート活動に携わってきました。相手を否定せず、感情や想いに寄り添うことを大切にしています。